戸山ハイツ「暮らしの保健室」を視察

東京都新宿区の巨大団地・戸山ハイツ。高度経済成長期に建設され、総戸数3000、約6000人が暮らしている。65歳以上の高齢化率が同区の約2割に対し、戸山ハイツの高齢化率は約5割。この一角に、カフェのような木の香り漂う落ち着いた空間がある。医療に関わる悩みを気軽に相談できる「暮らしの保健室」だ。室内では近所の高齢者がくつろいだ表情でスタッフと語り合う。

開設したのは、20年以上訪問介護に取り組んできた「白十字訪問看護ステーション」統括所長の秋山正子さん。秋山さんは、英国でがん患者や家族の相談を受ける施設を見てきた経験を通し、「日本では在宅療養への理解が進まない。英国のように気軽に相談できる場があれば、初期段階から支援できる」と考えてきた。

そのことを知った同団地の空き店舗のオーナーが協力を名乗り出た。その後、厚生労働省のモデル事業にも採択され、2011年7月、オープンにこぎつけた。

開所時間は月~金曜の午前9時~午後5時まで。土、日、祝日はイベント時のみ開いている。相談や訪問の予約は不要で、団地の住民に限らず誰でも受け入れる。現在、33人のボランティアのうち、毎日3人が常駐。訪問介護ステーションなどから派遣された看護師や保健師、薬剤師、ケースワーカーらが交代で無料相談に応じる。秋山さんらスタッフに相談し、家族を在宅療養でみとった人もボランティアに参加している。秋山さんは「今度は逆に私たちを支えていただいています」と、“支え合いのネットワーク”が広がっていることに手応えを感じている。

今年4月から9月までの間だけでも約2000人が同保健室を訪れた。相談内容はさまざまだ。「どうやって介護すればいいのか」「この薬は一緒に飲んでも大丈夫?」など。一人暮らしの高齢者が世間話に来ることもある。医療に関わる相談の約3割が、がんに関するものだ。相談内容によっては、秋山さんらスタッフの豊富な人脈を生かし、地域の病院と診療所、医療・介護機関への橋渡しも。「顔が見える関係がある。自分たちの経験も生きる」と秋山さんは語る。

保健室で定期開催するイベントも成果を上げている。例えば、毎年夏場に行ってきた熱中症予防教室だ。主に予防法を講義するが、ほぼ同じ内容を繰り返し行ってきた結果、熱中症の重症になる人が明らかに少なくなったという。

新宿区では「暮らしの保健室」と連携し、在宅医療・介護体制の強化に取り組んできた。その1つが、12年度から、毎月1回、土曜日に同保健室内で行っている、がんの療養相談だ。相談内容は「ご主人ががんを患っていて、自宅で痛がっているのに病院の外来では(痛がっていることを)言わないので薬が出ない」など、切実なものばかりだ。

区健康部の矢澤正人参事は「在宅療養を希望する人が増えている。かかりつけ医を持つ高齢者を増やし、地域で支える医療・介護体制づくりを急ぎたい」と語る。

都議会公明党の松葉多美子都議らは7日、同区の「暮らしの保健室」を視察し、秋山さんらと意見交換。視察を終えた都議らは「病院と住民をつなぐ、“中継点”、的に相談できる『暮らしの保健室』のような場所は、地域住民にとって広い意味での『心のケア』にもつながる」と述べた。

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